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with 新型コロナのジュエリービジネス

jewelristレポート with 新型コロナのジュエリービジネス

ジュエリービジネスで現実味を増す「Digital or Die」

2013年にソフトバンクワールドの基調講演時に、孫社長が語った「Digital or Die」の一言が、ジュエリービジネスで大きく現実味を増している。

これまでは「One to One」&「現物取引」中心のジュエリービジネスにおいて、デジタルトランスフォーメーションの有効性への認識は、悲しいことに我が日本では著しく低いレベルにある。

ジュエリーと同じファッション領域に属するアパレルでは、約10兆円の市場規模に占めるECの割合はすでに約17%近くに達し、片や日本のジュエリービジネスでのEC化率は、未だ5%にも届いていないと推計されるのである。

アパレルには、ZOZOのようなEC専業企業があり、ジュエリー業界には存在しない。こうした事実を突きつけても、日本のジュエリー業界の多くの企業・経営者は全く関心を示さなかったのである。

筆者が日本のジュエリービジネスの復活・発展にあたり、強くそして危急に望む施策は、ビジネスのオンライン・デジタル化の推進である。

昨年(2019年)11月に発刊した、当社刊『JEWELRIST』創刊25周年特別号で、筆者がはからずも日本のジュエリービジネス発展への第3のイノベーションとして、ジュエリービジネスのオンライン・デジタル化の推進化を提言したことが、この様なコロナウイルス感染拡大という想像もしなかった事で、その重要性が検証された事には複雑な思いもある。

1のイノベーションは、1960年代から1970年代初頭にかけての、ジュエリーの「生産革命」である。それは、ロストワックス製法の普及による、大量生産方式の確立である。

2のイノベーションは、1970年代後半から1980年代初頭にかけての「販売革命」である。「チェーンストアシステム」による、大量販売方式の確立により、急速なジュエリーマーケットの拡大を可能としたのである。

この製販両面においてのイノベーションにより、1975年に5,000億円程度だった日本のジュエリー小売マーケットは、バブル景気の追い風も受けて、僅か15年で6倍の約3兆円にまで急成長したのである。その成長を支え強力なエンジンとなったのが、上記の2度のイノベーションであったと考えるのである。

そして、今、日本のジュエリービジネスに新たな成長をもたらす3度目のイノベーションが必要と考えている。その3度目のイノベーションとは、ジュエリービジネスのオンライン・デジタル化である。

One to One」&「現物取引」中心のビジネス特性から、対面での販売、印刷カタログを見ながらのファックスでの商品注文といった、旧態依然のアナログ偏重の取引き形態から全く進化していないのが現状である。

地方の小売店主は月に1~2度、御徒町に来街してはこれまでの取引き業者を回り、顧客からオーダーを受けた商品やパーツを仕入れる。小売店主にすれば御徒町のどこにどのような特徴を持つ業者があるのか、情報を入手する術もなく仕入先は固定的になりがちで、これでは顧客に対してベストな商品提供、サポートができているとは言えない。また、原材料を海外から輸入し、国内で製造・加工し、卸売業から小売業へという流通経路は、もはや機能していないのである。

ジュエリーリサイクルビジネスの隆盛もあり、主な買い手は中国・インドなどの外国人バイヤーとなり、従来の商流は大きく様変わりしているのである。

AI、フィンテック、VRIOT、シェアエコノミー等、画期的なイノベーションの登場により、世界の産業・ビジネス構造は大きく変化している。

しかし、日本のジュエリービジネスは、こうした流れから完全に取り残されている。画期的なIT技術を開発して、これまでに無いまったく新しい事業(サービス)を立ち上げたなどというニュースを、日本のジュエリー業界ではほとんど聞いたことがない。目先の利益だけに汲々としているのが現状であり、中長期的な時間軸とグローバルな視点で、世界のジュエリービジネスとの連動を図ろうというような動きはほとんど見られていない。経営者が柔軟で新鮮な考えに立てないこと、ビジネスイノベーションが起きていないことが、日本のジュエリービジネス成長への大きな阻害要因になっていることに気づくべき時なのである。

そして、誰も考えもしなかった新型コロナウイルス感染拡大による、国内のみならず世界的な『モノと人』の移動の遮断による、ビジネス活動の停止という事態を前にして、ほとんどのジュエリー、リ・ジュエリー関連企業はなす術もない状況に追い込まれたのである。

誰が何と言おうと、ビジネスのオンライン・デジタル化への備えの脆弱さは、日本のジュエリー、リ・ジュエリービジネス関連企業の最大の弱点であることを露呈させたのである。

逆にオンライン・デジタルでのジュエリービジネスは、この非常時とも言うべき時に、その使命と役割を見事に果たしているのである。

この一点を、日本のジュエリー、リ・ジュエリー関連企業の全経営者は、注視すべきであると強く訴えるのである。このことを素直に理解できない経営者・企業は、もはやジュエリービジネスでの勝ち残り組には絶対になれないと知るべきである。

コンピュータ、スマートフォンのネットワークは、様々な技術と融合されることによって、マルチ・メディアとして格段に進歩した情報通信ネットワーク時代を実現させている。現在の一般ユーザー、ジュエリービジネス従事者は、車を運転するように何の抵抗もなく、易々とコンピュ一タ、スマートフォンなどを操り、ネットワークを通じて世界中の様々なジュエリーの情報を収集し売買しているのである。

今こそ第3のイノベーションとなる、ジュエリービジネスのオンライン・デジタル化の推進を訴えたい。

リアル(アナログ)+バーチャル(デジタル)が日本のジュエリービジネスを救う

宝石という商材はダイヤモンド、カラーストーン、金やプラチナにしても、稀少価値が高いものであるが故に、それを欲する消費者にとって、他の商材とは比較にならないほど、イメージ的な価値評価の高いモノとして意識され続けてきている。また宝石を商品化し、販売するにあたってもその稀少価値性とイメージ的な付加価値が高いが故に、他の商品とは異なった知識・技術や感性が要求され、他業種からの安易な参入を拒み続けてこられたとも言える。言い替えれば、ジュエリービジネスは宝石という商品が、他の様々な商品とは異なった特異性をもっているが故に、他の商品マーケットと比べると、はるかに低いレベルでの競争と、革新の範囲にとどまってこられたとも言えるのである。

経済環境やそれに伴う様々な社会環境の変化は、様々なビジネスの考え方や仕組みを大きく変革させているが、特に日本のジュエリービジネスは、その商材やマーケットの特異性に甘え、改革や革新のピッチは大変な遅れをとっていると言っても過言ではない。

その中で、全くの手つかず状態とも言えるのが、ジュエリービジネスのオンライン・デジタル化である。

交通機関や交通網の発達によって、モノや人の往き来(流通)にかかる時間的リスクは日毎に縮小され、世界中の情報がリアル・オンタイムでやりとり出来るようになり、モノを売買する販売チャネルや流通チャネルの選択肢を増加させている。

筆者は今、オフィスでパソコンの画面に向って座っている。画面を切り替えれば世界各国のサイトから好きなジュエリーをいつでも購入することができる。そんなことがいくらできるようになったからと言っても、宝石という商品は直接手にとって、身に着けて、高度な接客がなければ、そうそう売れるものではない!というご意見も多かろう。確かに宝石に限らず、趣味性や嗜好性の高い商品は、IT関連などでのバーチャル(デジタル)販売によって、リアル(アナログ)販売のシエアが大きく損なわられることはないかも知れない。

しかし、先にも述べてきたように、平時でのリアル(アナログ)チャネルだけでのジュエリービジネスの限界は明らかとなり、あって欲しくはないが、コロナウイルス感染拡大、大自然災害、香港デモのような政情不安などの非常時には、バーチャル(デジタル)こそがビジネスのライフラインとしての機能を果たすのである。。

筆者はリアル(アナログ)+バーチャル(デジタル)が、日本のジュエリービジネスを、再び大きく飛躍させるカギとなると考えている。

 

宝飾品の取引きは「One to One」&「現物取引き」がベースだが、こうしたリアル(アナログ)ビジネスをサポート・併用する形で、グローバルなバーチャル(デジタル)取引きを活発にしていかなくてはならないと提案するのである。

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