REPORT

宝飾品業界とデジタル化

2013年当時の弊社の問題点その2 【スライドNo.22】

しかしよいことばかりではありません。新たな問題が発生ました。

業務量が増えた分、ミスが増えました。

そのため人員を増やし、新たに事務所を借りなくてはならなくなりました。

以前から使用していた販売・在庫管理システムが、新しい業務に対応できないという問題も発生しました。

下見のお客様も増えたためその対応も必要になりました。

2013年の問題点に対する対策《 OMRISの 開発》、OMRIS概要図【スライドNo.23~24】

こうした問題に対応するため、ネットに出品中の商品をご購入いただけるよう御徒町に店舗を出店すること、ネット販売チャネルをさらに増やす、ということが決まりました。

しかし合計6つの販売チャネルをミスなく効率的にコントロールするには、人力ではとても不可能です。

そこで新しくシステムを導入することにしたのですが、調べてみると私たちが思い描くビジネスを実現できるシステムが存在しないことがわかり、エンジニアを採用し自社開発することにしたのです。

宝飾品は、ECのみで販売することが困難な商材のひとつです。高額であればあるほど、「現物を見て、身に着けて、確認したい」という心理は強くなります。ネットの販売チャネルを増やした時、下見のお客様も比例定期に増加したことからもそれは裏付けられます。これは消費者だけではなく、業者も同様です。

ネットは商品の存在を知るきっかけであり、実際に買うかどうかは、現物を確認してから決めると言うのが、宝石・ジュエリー購入行動のスタンダードなのです。

こうした顧客の購買心理・行動を理解した上で、実店舗とネット通販サイトとの間で在庫を連携できるシステムにすることを目指し、開発をスタートさせました。

開発開始から1年半後、そのシステムである、「OMRIS」が完成しました。

OMRISは完成から今日までに50回ほどのバージョンアップを繰り返し、現在、社内のほぼ全業務全行程で使用しています。

OMRISの運用以降、ネット販売比率は逓増し、現在は約60%がネット経由の売上となっており、さらにこのうち80%がスマホから購入されています。スマホで商品をチェックした後、来店されてご購入になる方もいらっしゃるので、広義でのネット販売比率は7080%ほどに達していると思います。

システム開発を経験することで、社員全員の、デジタルに対する知見は飛躍的に高まりました。私自身、テクノロジーをビジネスに活かすことについて、多くのことを学ぶことができました。

弊社の経験は、これからデジタル化に取り組まれる企業様にとって必ずお役に立てると思います。写真の撮り方や、カメラの選び方、説明文を書く時のポイントと言った基本的なことから、マルチチャネル販売の方法や、システムの提供、ネット業務の下請けも可能です。

ここまでが本日のお話の第1章に当たります。第2章では、少し宝石業界から離れた話をさせていただきます。

現代人が取り扱う「情報量」 【スライドNo.25】

マイクロソフトテクノロジーセンター長の澤円(さわまどか)さんが、現代の日本人が1日に触れる情報の量は、平安時代の日本人が一生かかって触れる量と同じで、江戸時代人の1年分に相当する、とおっしゃっていました。

人間の脳細胞は、500年や1000年くらいの時間経過で何百倍も賢くなるということはありませんので、触れられる情報量が増えた理由は、生物学的進化以外にあります。

それは、1つは移動の高速化、そしてもう1つは情報を作り出し、保存し、伝える技術の発達です。

情報量が増えた理由【スライドNo.26】

500年前、マゼランが艦隊を率いて世界一周を試みた時、2年の歳月が必要でした。

150年ほど前、SF作家の元祖と言われるジュール・ヴェルヌが、「80日間世界一周」という小説を発表しました。

今や航空機に乗れば、誰もが48時間以内で世界一周できます。旅に出て、その場所でしか味わえないものを見て聞いて体験することで、情報の量も質も濃密になります。そうした体験を情報に変換し、保存し、伝えるための情報技術は、僅か20年ほどで飛躍的に高まりました。今や手のひらに収まる小さな端末を一つ持つだけで、世界中の情報にアクセスし、また自ら情報を発信することが可能です。

その結果、世界に存在する有史以来の全データのうち、直近2年で生まれたデータの割合がなんと90%を占めるようになっています。

人類は、これまで経験したことのないスピードで、加速度的にデータを生み出して続けているわけです。

急増している「データ」とは、もちろん「デジタルデータ」です。

デジタルと音楽1 (CD=COMPACT DISK)【スライドNo.27】

デジタル化できる情報は文字だけではありません。音や画像や映像もデジタル化できます。

最初に一般消費者が手にしたデジタルメディアは、1982年に発売されたコンパクトディスク(CD)です。CDはオランダのフィリップスと日本のソニーが共同で開発したデジタルメディアです。ソニーとフィリップスがCDの仕様を発表した時、ほとんどのレコード会社は、「世界中の音楽ファンはレコードで十分満足しているのだから、CDは必要ない。」という反応を示しました。

ソニーとフィリップスは、オーディオメーカーを説得してプレーヤーの製造販売に導き、さらに大御所指揮者カラヤンの後押しを得て、CDへの方向転換を成しとげます。

1982101日、ソニーから12タイトルの日本人アーティストのCDを発売しました。昨今ジュエリーデザイナーとして活躍なさっているジャズボーカリスト笠井紀美子さんの「KIMIKO」というアルバムも初めて発売された日本人アーティストのCDのうちの1枚です。歴史にその名を刻んだ名盤と言えます。

CDは、音楽業界自身で起こしたイノベーションですが、残念ながらこれ以降、自ら革命を起こすことはできなくなっています。

デジタルと音楽2(IPOD+ITUNES) 【スライドNo.28】

CDの発売から約20年後の2001年、アップルがiPodを発売しました。

iPodを発売する4年前まで、アップルは余命半年という死刑宣告を受けていた会社だったのですが、iPodがヒットしたお蔭で、世界で有数の優良企業へと押し上げました。

iPodの発売から2年後、アップルはiTunesストアを立ち上げ、ハード・ソフトの両面から音楽業界をつくりかえてしまいました。

iPodiTunesの登場に関連して申し上げたいことは次の3点です。

ひとつは音楽を入手することが、ショップに行ってディスクを買う、ということから、自宅でファイルをダウンロードするという行為に変わった、ということ。

もう一つはアップルが音楽プレーヤービジネスを始める前、iPodiTunesの基礎的なアイディアや技術をかなり多くの企業が持っていたにもかかわらず、誰もそのチャンスを生かすことができなかったということ。日本のサンヨーやソニー、東芝などにもチャンスがあったのです。

そして3つ目は、音楽業界をつくりかえてしまったのが、音楽に関係のある企業ではなく、アップルというIT企業だったということです。

デジタルと音楽3(スマートフォンとストリー ミング)【スライドNo.29】

iPodの発売からさらに約20年経った今、もはや専用のミュージックプレーヤーは不要で、音楽を1曲ずつダウンロードする必要もありません。

定額制のストリーミングサービスが中心であり、端末はスマートフォンが主流です。

しかも今、音楽業界でもっとも高い報酬を得ている職種は、データサイエンティストです。音楽のことをあまり知らない、あるいは全く興味のない、数学の天才たちが音楽業界をつくりかえているのです。

スマートフォン中心の生活【スライドNo.30】

2017年のデータによると、世界のスマートフォン利用者数が40憶人に達したということです。2017年の世界人口は76億人ですから、世界人口の過半数がスマートフォンを所有していることになります。

携帯電話は、2007年にiPhoneが登場するまでは、文字通り『持ち歩くことができる電話』でした。しかしiPhoneが登場して以降、あらゆる情報にアクセスし、その情報を取り出して使ったり、経験したりすることができるハンディ端末へと一気に進化を遂げました。

スマホが一台あれば生活に必要なことは何でもできてしまいます。わかりやすく表現するならば、スマホは「ドラえもんのポケット」です。ポケットを通して出し入れできるのはデジタル情報だけです。それは世界中に繋がっていて、いつでもどこからでもアクセスすることができます。

私たちは意識しないうちに、生活に関するほぼすべてをスマホから情報を得て、比較し、予約し、購入するようになっています。

さまざまな分野でデジタルが活用され、私たちの生活を変えてきたのです。しかもこれで終わりではありません、5G通信が始まるとさらにデジタル化は加速していきます。私たち宝飾品業界だけが、こうした現実に背を向けて生きていくことはできないでしょう。ここまでが本日の第2章になります。

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