寄稿

直言・苦言・提言・至言 これでいいのか!? 日本のジュエリービジネス 山口 遼

25年前の「JEWELRIST」との出会い

確か1994年の年末の頃に、京都から新しいジュエリー業界誌を創刊すると言って、川村さんが私のところへやってきたのを、今でも鮮明に覚えている。

業界誌なら新聞でも雑誌でも、既にたくさん発刊されているし、『ジュエリー業界人はほとんど勉強しないから、出版しても読まないし売れないよ』大いに皮肉を言ったら、川村さんは憤然としてこう言い放った。

『いや今出ているのは、自分の意見は何もないジャーナリズムですよ。やれ業界団体が集まったとか、誰かが勲章を貰ったとか、どこかの企業が販売会をやって、素晴らしい集客で目標を達成したとか。不思議なことに、全ての企業が業績好調という記事ばかり。そうなら何で業界全体の売り上げが減少するのですか。そんな記事は全く役に立たないし、ジュエリー業界の今を変えてゆく提案をするジュエリー業界誌を出すのです』との賜った。さすがの私もびっくりするほどの、すごい鼻息でした。

私も色々と言いたいことはあったのですが、発表の場も無くうんざりしていた所でしたので、絶対に原稿を拒否するなよという条件で、まあ、言いたい放題を書きましたね。随分とジュエリー業界からは顰蹙を買いましたが、よく言ってくれたという人も多かったですよ。その後に、川村さんとの対談形式で、業界の問題点を話し合う連載を続けました。これは結構長い期間連載されました。対談を10編~12編ほどまとめて小冊子を6冊ほど出しましたか。

当時は拍手をくれる人と、文句を言う人とが半々でしたでしょうか。それが今頃になって、あれは面白かったと言う人に多く出会い、続編をリクエストもされる事もあります。まあ、対談と言っても私の言いたい放題で、初めの頃、川村さんは合いの手を入れる程度でしたが、後半になると、彼もちょっと弱気になるところもあって、おや、いよいよ業界人らしくなってきたかなと思いましたが、まあ良く頑張ってくれましたね。

これでいいのか⁉ 日本のジュエリービジネス

まあ、川村さんへのお祝いとは離れますが、振り返って見てみると、川村さんと共に指摘してきた問題点は、どれ一つ解決されませんでしたね。むしろ、あの頃よりも悪化して、深刻化していると思います。ピーク時に3兆円と言われた日本のジュエリー小売市場は、どんどん縮小を続け小売店舗数も半分以下に減少。そして、ジュエリー小売市場はついには1兆円を切るまで下がった。売り上げが3/1以下になっても、全く何も手を打たない業界というのは、まあ他にはないと思いますよ。手を打たないというよりも、手を打つだけの器量のある人材もリーダーもいない。まあ、私個人としては、市場が3兆円に近かったのが間違いで、日本の経済規模から言えば、1兆円前後というのはやや不満ではあるが、頃合いのマーケット規模になっているのかなとも思います。

こうした中で、古くからの宝石店は消えて行き、ブライダル専門店と称するドシロウトの店がはびこり、百貨店の宝石売り場は空家同然、いつの間にか1階アクセサリー売り場が宝石売り場となった。まあ、百貨店の上層階にある宝石売り場は、もはや構造不況業種ですよ。その昔、百貨店には電機売り場も、家具売り場もありましたが、ともに消滅しましたよね。次に消えるのは呉服売り場かなと思っていましたが、宝石売り場かもしれないというのが、偽らざる気持ちです。少なくとも、平日の売り場、平場というのですか、そこでお客様を見ることはほとんどないですよ。まあ、多くの百貨店の担当者、バイヤーというのですか、何も買わないのに、バイヤーとはこれいかに!と、昔言ったら、大変怒られましたその人達に会っても、おお、これはプロだなと思えるバイヤーは、まあゼロに近い。ドシロウトが店内の移動で宝石担当になっているだけで、すべては仕入れ先に丸投げ。これで売れたらキセキです。

こうした中で業界が考えたのは、高いモノが売れないなら安いモノにシフトしようと、どんどん安物を中心に売り出せば、まともなお客様はどんどん逃げる。さらに安く安くと、単価はますます下がる一方で、ついに小売マーケット規模が1兆円を切る今日になっても、ジュエリー業界は全く変わらない。いつか何処かで見たような商品を、より安かろう悪かろうにしたモノを並べては、売れない売れないの大合唱が響くだけ。それでも誰も何もしようとしない。もうジュエリーとアクセサリーとの差は消滅しました。ジュエリー業界団体だけはたくさんあるが、どれ一つ、業界の現状を変えようという気概のある業界団体はない。まあ、みんなで売り上げダウンは怖くない、傷の舐め合いと飲み食いの集まりで終わっていますよ。

ジュエリー業界誌の中で、比較して評価できた「キラ」とか「日経ジュエリー」などの雑誌も、あまりの売れなさで遠い昔に廃刊になりました。廃刊になる直前の日経ジュエリーの編集長に言われましたよ、これだけ業者がいて、売れるのは2000部にもならない。しかも、その半分はお客様の女性が買っている。ジュエリー業界の人は勉強しないのですか?と。まあ、その通り、これほど勉強をしない業界というのも類がないですよ。珍しいです。最近、私が最も気にしているのは、ジュエリー業界に、トップインテリジェンスの大卒が来ないということです。業界の数少ない上場企業でも、東京で言えば六大学卒は殆ど来ませんよ。これじゃ将来も、今以下の人材でやって行くということ、それなら見込みはありませんね。この意味でも、業界誌というのは大事ですが、まあ、今日に至るまで、役に立つマスコミは業界には少ないです。

課題が残るも評価すべきジュエリー リサイクルビジネスの出現

そうは言っても、良い変化も少しはありますね。ジュエリーの買取り市場が出来てきたことでしょうか。これは日本のジュエリービジネスが、世界に冠たる数字になり始めた頃から、長い目で見れば大きな存在になると思い、私も当時の大蔵省や警視庁に伺いに行ったのを思い出します。ともに木で鼻をくくるどころか、鉄で鼻をくくるような応対で、全ての取引きは警察と税務署に届けろ、そうした取引きは全て国が管理するのだと。まあ、こうしたお役所の姿勢には、今でも基本的には変わらないと思いますが、むしろビジネスがどんどん進んで、現実に対応できないというのが実態でしょうね。そうした中で、オークションビジネスも生まれ、買取り市場も大きく成長してきた。これだけはまあ良くなったと言えるでしょうね。

しかし、この買取り市場が成長してくると、また別の問題が生まれます。ひとつは買い値と売り値が違いすぎるという話で、某大百貨店の1000万円の領収書のついたジュエリーを、査定したら50万円にしかならない、一体これはどういうことという話です。これに対して、業界、業者がちゃんと答えたのは聞いたことがない、あの頃はドルが280円でとか、いやまあ諸々ありましてとかで明快な答えになっていないですよね。

私がお客様にはっきりと言わなければならないと思うことは、ジュエリーの99%は消耗品だということ。つまり洋服とか靴か下着とかと同じく、使えば価値が下がるものなのだと言うこと。つまり散々使って楽しんで、さらにそれが高く売却できる、場合によっては儲けの出るほどに売れるなどというのは、大きな妄想に過ぎないということ。ジュエリーの価値とは、身に着けて褒められ、自分も楽しみ、ジュエリーにより心が満たされ、場合によっては娘や孫に継承できることにあるということを、しっかりと伝えるべきなのです。それなのに、販売する時に、これは値上がりするとか、これは間も無く無くなるとか、いい加減なことを言う業者が、今でも後を絶ちません。まあ、ジュエリー業者もお客様も、ジュエリーの本当の価値とは、使うことにあるということを認識しない限り、この堂々巡りは終わらないでしょうね。川村さんの発刊する「JEWELRIST」には、この辺の難しさをお客様と業者の双方に、理解させる役割を果たしてくれる事を期待しています。

動向が注目される人工ダイヤモンド ビジネス

もうひとつ、最近の出来事で気になるのが、人工ダイヤモンドの大騒ぎでしょうね。騒いでいるのは、ジュエリー業界の中だけ。例のごとく、鑑別業者だの宝石学者さんだのがどっと登場して、作り方、鑑別方法、高温高圧だ、気相蒸着だ、中国・インドがどうしたとか。まあ、至れり尽せりの大議論がまかり通り、勉強会だ、実物を見る会だ、などなど大騒ぎです。しかし、よく考えてくださいよ。こうした論議は、業界の中でのお勉強であって、もちろん知識があることは大事ですから、勉強を否定はしませんが、業界としてお客様に対してやるべきことは一つしかない、という点を皆さん見落としていませんか。それは天然ダイヤモンドと人工ダイヤモンドを混同しないこと、あるいは意図的にそうしたことをやろうとする業者を絶対的に排除する。これだけはジュエリー業界がお客様に対して成すべきことではないのでしょうか。ダイヤモンドにつける接頭語も、人工、合成、シンセティックの三つだけで、それ以外の妙な単語のついたダイヤモンドは扱わない。これが出来れば、後はお客様が選ぶだけのことです。つまり、白く光る石があれば、それは天然ダイヤモンドか、人工ダイヤモンドか、スワロスキーなのか。お客様は自分の好みと予算で選ぶだけのこと、大騒ぎすることは何もないと思うのですが。うがった見方をすれば、大騒ぎするのは、必ず業界の中に、天然と人工とをごまかして商売をする人間が出てくると思っているということではないでしょうか。まあ、実際、すでに奇怪な接頭語のついたダイヤモンドが出回っていますよね。いつまでたっても、宝石屋のやることは同じと言われても仕方がないかと思います。このあたりも、川村さんの雑誌が踏み込んで、鮮明にされることを期待しています。

山口 遼 日本のジュエリービジネス大総括

最後になりますが、想い出話ばかりじゃなく、日本のジュエリービジネスを私なりに総括してみます。この辺りを、今後、川村さんが継承し、更に深く突っ込んでくれることを期待していますが。

これまでの日本のジュエリービジネスの中で評価できる事

これはまあ、いろいろと言っても、ジュエリーというものを、女性の必需品にまで高めたことでしょうね。1960年代以前には、日本の女性にとってジュエリーらしきものと言えば、金のチェーンか、細い養殖真珠のネックレスだけだった。それを最初は海外のコピーか、見よう見まねであっても、いろいろなジュエリーを作り出し、飽くことなく売り込んだ。それによって世界有数の大きなマーケットを作り上げた。まあ、女性向けのジャーナリズムの盛況にも乗って、ジュエリーというものの市場を広げた、ほとんど必需品化した努力は認めなければならないと思います。

逆に日本のジュエリービジネスの汚点として業界が戒めるべき事

上記のような業界の努力がピークに達した1990年頃から、ジュエリーは売れなくなってきた、どんどん下がってピークの三分の一程度まで下がった、その時に、業界が考えたのは、売れない商品に対しての反省ではなく、商品はそのままにして、いかにしてその商品を売るか、つまり売り方についての工夫を重ねるかということでした。もちろん、バブルと言われた時代から、日本でしか見られない奇怪な販売方法はあったのですが、それが一段と強くなった。もちろん、小売の世界で売り方の工夫は当然のことで、その意味では日本の業界の努力はあっぱれとも言えないことはない。しかし、商品についての反省を全くせずに、売り方だけの工夫をするというのはやはり間違いです。

その行き着く先がマグロの解体ショーに代表される催事販売であり、ローン漬けの世界というのはご存知の通り。我々はあまり気づいていないのですが、ジュエリーをローンで売り買いするというのは、世界中、日本とアメリカの一部だけで、お隣りの韓国や中国でも、存在しないし理解されないことなのです。自分たちが作り・売るジュエリーについての反省皆無。これこそが業界を歪め、売り上げが伸びない最大の理由であり、同時にブライダル専門店と称する素人集団に跋扈を許す理由ではないでしょうか。

こうしたことが、この30年近く続いています。ジュエリーと言う商品に関心を持ち、より良いものを求めようという気持ちが全く感じられません。それが業界の最大の欠点でしょうね。

これからの日本のジュエリービジネスの展望と業界への言葉

ズバリ正直に言って、日本のジュエリービジネスがこれから大幅に伸長するとか、再び3兆円の時代に戻るということは絶対にないと思います。おそらく総体では1兆円前後で推移し、それに携わる宝石業者は半減する。つまり生き残れれば、売り上げは倍増くらいまでは伸ばせるということかなと思います。問題は自社がいかにして生き残り組に入るかということで、あくまで私見ですが、今ある小売店は半分くらいまでに減ると思います。残るか残らないかは、上に立つ者がどれほどジュエリーと言うものを愛し、新しいこと、新しい商品にチャレンジするだけの気概を持つかで決まると思います。つまりですね、ジュエリーが好きで宝石業をやるという人だけが残る、それでいいと思います。好きでもなく、関心もないけど親から引き継いだからやっているという業者は、他の業種に転業されることをお勧めします。シビア過ぎますか???

 

 

そうした不思議かつ奇怪な環境の中で、まあ褒めすぎかもしれませんが、川村さんはよく頑張ったし、頑張っていると思います。最近では、広告が増えすぎたのが気になりますが。(笑)まあ、毒はあるけど、ジュエリービジネスの役に立つ意見を、どんどん載せることを忘れずに、大いなる論議の場として、さらなる発展を期待しております。一緒に業界の嫌われ者になるのもいいかもしれません。(大笑)頑張りましょう。川村さん、「JEWELRIST」創刊25周年、本当におめでとう。

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