REPORT
愛する日本のジュエリービジネスへ
これまで、いま、そして、これから

『JEWELRIST』創刊30周年をむかえて
『行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。世の中にある人とすみかと、またかくの如し。』方丈記(鴨長明)の有名な冒頭の文で、この世の無常観を見事に表現した名文である。
『JEWELRIST』創刊30周年を迎え、愛する日本のジュエリービジネスに思いを馳せ、この巻頭言の執筆にあたって思いを巡らせたときに、この一文が改めて脳裏に浮かんだ。
世界に冠たるジュエリービジネスの隆盛を築き、バブル景気の崩壊を期に下降期から停滞期を経て、再興期にある日本のジュエリービジネス。
『JEWELRIST』はまさにビジネスの下降期にあった1994年11月に創刊を迎えたのである。志はあるものの能力も資金も微力・微弱で、ビジネス環境は最悪とも言えるタイミングでの船出から30年。「久しくとゞまることなし」と言える日本のジュエリービジネスにあって、創刊30周年の佳節を迎える事が出来ましたことに、衷心より感謝と御礼を申し上げます。また、ジュエリービジネス業界の皆様、就中、クライアントの皆様、当社スタッフ、編集・印刷に携わる皆様の、『JEWELRIST』への変わらぬご厚情並びにご支援に、改めて心より御礼申し上げます。
更なる昇華に向けて創刊の原点への回帰
久しぶりに創刊号を手に取りながら、改めて『JEWELRIST』創刊・編集の原点を、新たなる成長と昇華への決意を込め再確認したい。
『JEWELRIST』はジュエリービジネスのNo.1総合情報誌として、『徹底した取材と多角的な分析で、常に一歩先の時代を見据え、ビジネスの発展に何が必要で何が不要かを、そしてビジネスがどう変化するのかというポイントを、具体性のない空論でなく的確なレポート』をコンセプトに、以下の5つの項目を重視し「ジュエリービジネスに役立つ情報だけ」を提供する編集・誌面作りを図っている。創刊30周年を迎え、改めて肝に銘じたい。
情報の総合性
個別のデータや限定された分野の情報が、全体の中ではどんな位置づけにあるのか。常にこの「総合性」の視点を持って、小さな事実の中から次世代への息吹を感じる記事を。トータルな視点であらゆる分野に目を配った、総合性を持った情報提供に努める。
情報の分析力
徹底した調査・取材をベースに情報・データを収集し、経験豊かなスタッフが自らの目と足で確かめた事実を、幅広い視野で構成し記事を作成。数量・データのみに基づく分析とはひと味違うニュースを提供。
情報の信頼性
情報の信頼性の追求はもちろん、売るための記事づくりに流されることなく「具体的かつ戦略的な情報誌」として読者の信頼に応える。
情報の先見性
現状分析だけでなく、現実の中に潜む将来への胎動をつかみ、明日の経営環境を予 見することが、ジュエリービジネスに関わるマネジメント層にとってはより重要な事との観点から、時代を鋭くとらえたキーワードを取り上げ、決して現実の後追いではなく、常に次代を展望する記事を提供。
情報の深掘り
ニュースを一報として流せば事たれりとの姿勢とは一線を画し、ニーズに応える情報を常に追求し、現場に密着した取材で背景と核心に迫る深い記事を発信。
この5点が『JEWELRIST』の創刊と編集の原点である。
この原点を決して忘れず、劇的な変化を遂げる日本のジュエリービジネスにあって、確かな羅針盤たる『ジュエリービジネスの総合誌』としてのさらなる昇華を、創刊30周年にあたり改めて深く心に期するものである。さらに進化、パワーアップを目指す『JEWELRIST』への力強いご支援を、改めて心よりお願いを申し上げます。
私が選ぶ日本のMAN (COMPANY) OF JEWELRY BUSINESS
創刊30周年記念号のこの巻頭言の執筆を進めながら、これまでの日本のジュエリービジネスを振り返ってみた。走馬灯のようにいくつもの企業、経営者、出来事が浮かんでは消え、ふと『日本のMAN (COMPANY) OF JEWELRY BUSINESSを選ぶとすれば』という思念が頭をもたげた。日本のジュエリービジネスには、規模の大小、業態を問わず、評価の高い企業・経営者が数多く存在し、存在した。
それらの中から、日本のMAN (COMPANY) OF JEWELRY BUSINESSを選ぶとなると、これはまた難問中の難問である。読者をはじめ業界の皆様からの顰蹙を覚悟して、JEWELRIST創刊30周年を記念する今回のレポートに当たり、あくまでも私感として敢えて選ばせていただきたい。
まず、選ぶにあたって以下のポイントを重要な選定条件とした。
- 独自のビジネス視点・理論
- 比類なき企業実績
- ジュエリービジネスの発展・隆盛に大きく寄与
- 新たなマーケット・事業領域を開拓・拡大
- 強力で魅力的なリーダーシップ
上記の条件から幾つもの企業・経営者をエントリーして、その中から私なりの視点で、昭和と平成から一人ずつ、日本のジュエリービジネスの寵児ともいえる2社の経営者(創業者)を選ばせて頂いた。
《昭和の大器》株式会社三貴
創業者 木村和巨氏
昭和を代表して私がMAN (COMPANY) OF JEWELRY BUSINESSに選んだのは、株式会社 三貴(以下、三貴)の創業者木村和巨氏である。
1965年に26歳でジュエリーの零細卸売り業を創業。創業から4年後の1969年、大井町のイトーヨーカ堂に同社初の直営小売店舗をテナントとして出店。深夜の大量のテレビCMで高い知名度を誇った「カメリアダイヤモンド」を武器に、「銀座ジュエリーマキ」「銀座じゅわいよ・くちゅーるマキ」をはじめとする宝飾小売店、そして婦人服・子供服小売店を、当時としては革新的といわれた SC(ショッピングセンター)を中心に多店舗展開。ピーク時には宝飾店舗だけで780店を展開し、グループ売上げで約2700億円(OFFICE K推計)を誇る、世界トップクラスのジュエリー&ファッション小売業を築いた。3兆円を誇った日本のジュエリー・ファッション小売業の隆盛期の構築に、際立って大きく貢献した経営者と言える。
矢野経済研究所在籍中に、当時の木村社長に何度もお会いする機会があったが、その類稀な強力なリーダーシップに、大きな驚きを感じたことを今でも鮮明に記憶している。
メインバンクの北海道拓殖銀行の破綻、上場に向け起用した証券幹事会社である山一證券の廃業などで業績が急速に悪化。2度の民亊再生を行い経営権は引き継がれた。
以下に、木村和巨氏を評価した特筆すべきポイントをまとめた。
- グループ売上げで約2700億円(OFFICE K 推計)、ピーク時の宝飾店舗780店の世界的マンモス企業を構築
- SC(ショッピングセンター)出店により、大衆層という新たなターゲットにジュエリービジネスを展開
- 低価格でファッション性の高いファッションジュエリーを創出。ジュエリーマーケットの裾野を大拡大
- 商品企画・製造・物流・プロモーション・販売までを一貫して行う製造小売業(SPA)を構築した。
ジュエリー業界のみならずファッション業界での先駆者 - 店舗レイアウト・ショーケースサイズ・商品構成・プレゼンテーション・接客方法などを最適化(マニュアル化)、業務全般の「単純化」「標準化」「専門化」を推進
《平成の巨人》株式会社ネットジャパン
創業者 吉澤敏行氏
平成を代表して私がMAN (COMPANY) OF JEWELRY BUSINESSに選んだのは、株式会社 ネットジャパン(以下、ネットジャパン)の創業者吉澤敏行氏である。
1995年創業のまさに平成生まれの巨人である。ジュエリーリサイクルビジネスという、未踏のジュエリービジネスを創出・構築し、日本のジュエリービジネスに大いなる触発と革新を与え、ビジネスの拡大・発展に大きく寄与した超ビッグカンパニーの創業者である。
その事業領域は、創業時の貴金属地金(金・プラチナ・パラジウム・銀)の売買、貴金属スクラップの買取り・精錬から、現在ではダイヤモンド、宝飾品、ブランド時計、コイン&コインジュエリーのリサイクル・ニュープロダクトに加え、ジュエリーリフォームにまで及ぶ、ジュエリービジネスの総合商社と呼ぶに相応しい幅広い商材の展開を見せている。2019年7月からはNJオークションとのネーミングで、ダイヤモンド、宝飾品の日本国内最大級のオークションビジネスを展開している。
今でこそ当たり前のように日本のジュエリー企業がしのぎを削る、香港をはじめとする海外ジュエリーフェアへの出展の範を示し、海外マーケット開拓のパイオニア企業としても、ネットジャパンは大きな貢献を果たしている。そのネットジャパンへの評価と支持は、日本は当然のことながら中国・香港・インド・東南アジア・中東・アメリカをはじめとして、他社の追随を許さない大きくグローバルな広がりを見せている。
金をはじめとする貴金属価格の高騰を追い風に、事業を大きく拡大させリサイクル貴金属地金の日本国内シェアは最大時には60%を誇り(OFFICE K推計)、ダイヤモンドは大粒からメレーまでを取り扱い、宝飾品はプレミアムからライトジュエリーまで常時在庫している。
2017年には総売上げで7000億円を超えるまでの、超巨大ジュエリーカンパニーへと成長を果たした。
創業者吉澤敏行氏には、公私に亘り様々なシーンでご一緒させていただいた。温かな人間性、卓越した視点・分析力・構想力、果断な決断力、幅広い人脈、強力な指導力、どれも吉澤敏行氏を語るに相応しい言葉と言えるが、これだけでは語り尽くせぬ深い魅力を持った稀代の経営者といえる。
残念ながら2019年6月に勇退されたが、創業の精神である『Fair value (納得頂ける公正な価格)』による『Fair trade (透明性のある公正な取引)』は、ネットジャパンに継承され、新たなジュエリーリサイクルビジネスの隆盛期の構築を目指した展開を図っている。
以下に、吉澤敏行氏を評価した特筆すべきポイントをまとめた。
- 総売上げ7000億円超を誇る(2017年実績)超巨大企業を構築
- ジュエリーリサイクルビジネスという未踏の新ビジネス領域を創出し、低迷期の日本のジュエリービジネスに活力を与え、ジュエリーリサイクルビジネスマーケットを大きく牽引・拡大
- 香港をはじめとする海外ジュエリーフェアへの出展の範を示し、海外マーケット開拓のパイオニア企業として大きく貢献
- 適正・公正な価格での評価・査定・買取りで、『本当に価値あるジュエリー』を消費者に啓蒙
- 再流通市場・二次市場の創出により、ジュエリー消費の循環を生み出し持続可能なジュエリービジネスを実現
これからの日本のジュエリービジネス
2019年12月初旬から世界中がコロナ禍に見舞われ、生活環境やライフスタイルのみならず、ビジネス環境やビジネス形態に大きな変化をもたらせた。
AI、フィンテック、VR、IOT、シェアエコノミー等、画期的なイノベーションの登場により、世の中の産業・ビジネス構造は大きく変わろうとしている。
その中で、我々ジュエリービジネスの直近での大きなトレンドを見てみると、コロナ禍によりオンラインでのジュエリービジネスへの展開が大きく進むかに見えたが、コロナ禍を超えて新たなジュエリービジネスとして定着したのは、スマホなどのデジタル端末を使ってユーザーにジュエリーをダイレクトに販売するライブ販売と、リサイクルジュエリー企業が中心となり展開する、ダイヤモンドやジュエリーのオンラインオークションくらいである。
日本での好調なジュエリービジネストレンドをみると、金の高騰による喜平チェーンを中心とした貴金属製品の販売、その逆の金・プラチナなどの高騰による貴金属製品・宝飾品の買取り、コロナ禍明けからの真珠とカラーダイヤモンドへの人気、円安によるインバウンド需要に押されての海外有力ブランドジュエリーなどが挙げられるが、それぞれの事業者が目先の利益に汲々としているのが現状であり、中長期的な時間軸とグローバルな視点で、世界のジュエリービジネスとの連動を図ろうというような動きが、ほとんど見られていないのが日本のジュエリービジネスの現状と言える。新鮮な発想を持つ経営者が現れないこと、ビジネスイノベーションが起きていないことは、日本のジュエリービジネスの大きな成長への阻害要因になっていると考える。
日本国内のジュエリー消費の高まりのなさ、香港を中心とした海外ジュエリーフェアへの依存過多、国内ジュエリー催事ビジネスの行きづまり感、中国に変わるニューマーケットの不在など、未来(これから)の日本のジュエリービジネスを取り巻くビジネス環境は厳しいといえる。
その中で、新たな隆盛を目指すには過去(これまで)、現在(いま)を大きく凌駕する、英知の結集と果敢な挑戦が必要となる。
今こそ日本のジュエリービジネスにあって望まれるのは、第二の木村和巨、吉澤敏行の出現であると筆者は考えている。『塵も積もれば山となる』という言葉がある。小さな積み重ねが大きな成果を生むという意味で、私も大切にする至言であるが、過去にチリが積もって山となった試しはないのである。地球に山ができるのは地殻変動によってのみなのである。
何を申し上げたいかと言うと、閉塞感の漂う日本のジュエリービジネスに、大きな地殻変動を起こすビジネスリーダーとビジネスの出現をと願うのである。旧来のビジネスをベースに、大きな成長ベクトルを指し示す企業とビジネスリーダーの出現、まさに令和のMAN (COMPANY) OF JEWELRY BUSINESSの登場である。
勿論、どのようなビジネスであっても、一人の力で成り立つものではないことは、重々承知している。申し上げたいことは、これからの日本のジュエリービジネスを開く、トレンドビジネスを産み出す智慧と力である。
筆者はその近未来のトレンドビジネスのヒントは、旧来のジュエリービジネスとリサイクルジュエリービジネスとの、大きな融合若しくはコラボレーションにあるのではないかと考えている。その具体的な答えは見いだせていないが、この方向性こそが、日本のジュエリービジネスに地殻変動を起こし、地に足就いた成長軌道を歩む持続可能なビジネスとなりえる、重要ポイントであると強く確信するものである。
ともあれ、ジュエリービジネスに携わられる皆様のご厚情により、この様に創業と『JEWELRIST』創刊の30周年を迎えることができました。末尾にあたり衷心より御礼と感謝を申し上げます。そして、これからの積み重ねは、皆様とジュエリービジネスへのご恩返しとの思いで、新たに精進を重ねて参りたいと思います。今後共の厚いご支援を賜りますよう、心からお願いを申し上げます。


